「私の部屋は大丈夫だけれど」 部屋に入ってから第一声が 『部屋の中が荒らされていない!?』 という普通なら戸惑う問に、シャトーはごく普通に答えるのであった。 「ジャスティーン、何かあったの?」 「私の部屋の中が荒らされているのよ!なんか、空き巣に入られたみたいに」 「ジャスティーンの部屋に?」 「そう、私の部屋に!」 荒々しいジャスティーンに対してシャトーは冷静だったが、少し眉をひそめる。 「あ、叔母様に知らせないといけないかしら?」 だが、この城の主であるヴィラーネが城内での出来事を知らないというのはおかしいのではないだろうか? 「ヴィラーネは今出かけている」 「…そうなの」 ジャスティ−ンの思考を悟ったように言うシャトーに一瞬驚くが、叔母が留守だということを知ってガッカリする反面安心してしまう。 いつも厄介ごとばかりを背負うジャスティーンの行動について彼女がどこまで把握しているか知らない。 しかも、城に帰ってきても何も問われないのでどう解釈したらよいのか分からないのだ。 だから叔母がいないときならば知られていないと願ってしまう。 「まだ状況はそのまま?」 「ええ。レンドリアにまかせてきたけれど…どうせやっていないわ。シャトーなら見て分かることがあるかもしれないし」 そうしてジャスティ−ンはシャトーとともに、あの悲惨な空間へ嫌々戻っていった。 + + + (やっぱり片づけてなかったか…) まぁ、最初から期待などしてはいなかったが、2度もこの光景を見せつけられると流石に泣きたい気分になる。 だからといってレンドリアがそんな面倒くさいことをするはずがないのだし、そもそも彼に何の罪もない。 あの時は混乱していた所為でもあってレンドリアにあたってしまったけれど、今更レンドリアが部屋を荒らす必要もなければ理由もない。 いくら悪戯好きだとはいえ自分の主の部屋を荒らしはしないだろう。 それにしても 「ね、酷いでしょう?」 ため息とともにウンザリとした声で言うジャスティ−ンにシャトーは浅く首を縦に振る。 だが、表情は相変わらずのままで、そこが彼女らしいといえばらしいのだが、少しぐらい驚いたりしてみてもいいのではないかとジャスティーンは思った。 「確かに、酷い……けれど…おかしい気がする」 「おかしいって何が?そりゃあ、叔母様の城でこんなことがおこるのはおかしいけれど…」 「それもあるけれど……魔術の感じがする」 「魔術?」 コクリと、静にうなずく。 「この荒らされた部屋のなかで魔術が使われたと思う。……何か盗まれたと思うようなモノはある?」 「これじゃあ何が無くなったのか分からないわ。だけど、盗まれるようなモノは持っていないわよ」 叔母に引き取られる際に高価なモノなど持っていなかったし、ジャスティーンが高価だと思うモノは魔術師たちにとって日常品である。 わざわざジャスティーンのところから盗む必要はない。 「そう…。それに、盗むだけならこんなに荒らさなくてもできる。だからどうしてこんなに荒らしたのかが分からない」 ジャスティーンは魔術についてよく分からないが、彼らならスマートに出来るのだろう。 ならば、どうして荒らす必要があったのだろうか。 「まずは部屋を片づけて、何が盗られているのか確かめた方がいい」 「…やっぱり……」 結局は片づけなければならないのか。 微妙にずれたところで落ち込むが、大きく深呼吸をしてレンドリアを呼ぶ。 「なんだよ…俺は専門外だぜ?」 しぶしぶ呼び出されたレンドリアは、全身から拒絶していた。 燃やすのだったら喜んでやるけどな、と冗談半分で言う、が。 「そう、だったら全部燃やして片づけてよ」 「は?」 「こんなに壊れてしまったんだから直すにも直せないでしょう?だから燃やすの」 捨てに行く気力なんてジャスティーンには残っていなかった。 この際、もうどうだっていい。 「本とか…まだ使えそうなモノは私が整理するから、後は燃やしてもかまわないわ」 「オイ」 「喜んでやってくれるんでしょう?」 そんな開き直られても、とレンドリアは思ったが、まぁいいか。 燃やしてもいいとジャスティーンに言われると不気味な感じがするのだが、ここは素直に従っておこうと片っ端から火を付けていくのであった。 ← → |