心の奥の小さな隙間に、大切にしまった宝箱。 なぁに、お母さん。 いいもの? 小さな袋の中に、入っている『何か』。 …困ったとき? ふーん…。 お父さんにも? 二人だけの、秘密。 『約束』 + + + (悪夢だわ…) 目の前の光景を見て、ジャスティーンはそう思いこんだ。 いや、思いこむしかなかったと言った方が良かった。 「なんなのよ…この有様は」 散らかった手紙や本。タンスやクローゼットからはみ出した、あるいは床に落ちた服やアクセサリー。 開きっぱなしの窓に、破れかかったカーテン。 椅子や机は倒れ、花瓶は飾ってあったと思われる花と一緒に絨毯の上に散らばっている。 そして、そうなっているのはジャスティーンの部屋の中。 なにが、どうして、こうなったのだろうか。 ジャスティーンは未だ理解できない頭を叩いて必死に考える。 (泥棒…?でも、ここは叔母様の城なのよ、ありえないわ。) 昔住んでいた町ならともかく、この城に泥棒など入れるはずがない。 といっても、つい最近、ジャスティーンは宝石泥棒によって彼女ごと盗まれたのだが。 彼らは魔術師なのだ。こんな派手に散らかしていくだろうか。 (必要なモノだけ取っていくだけで、こんな探すような真似はしないわ…) いかにも部屋の隅々まで探し回りました、と言いたげな有様は、魔術師がやったとは言い難い。 「大体、魔術師に取られるような大切な物なんて部屋に無し…」 あるとしたら、指輪だけだ。 だが、これはジャスティーン自身が肌身外さず持っているモノで、指輪だけを盗むことはできないだろう。 盗むとしたら、ジャスティーンごとである。 ならば泥棒ではないのだろうか。 (ダリィの悪戯?…それにしては幼稚すぎるし……) ダリィとスノゥが暴れたとしたら辺りは水浸しになるはずだし(その点はホッとしたが)、ジャスティーンの部屋を荒らして平気でいられるほど図太くもない。 「まさかレンドリア 「なんでもかんでも俺に結べばいいってもんじゃないぞ」 いつのまにか背後に立っていた少年はすかさず突っ込む。 ビックリして振り返るジャスティ−ンに対してわざとらしくため息をつき、キョロキョロと辺りを見渡した。 「レ、レンドリア!」 「すっげー有様だな、こりゃ」 ここまでくると芸術ものか?と、面白そうな声で騒ぐレンドリアにムッとする。 「コレが芸術なら趣味が悪いわよ!というか、そんなわけないでしょう!?」 主の部屋が荒らされて無惨な姿になってるというのに、どうしてこう落ち着いてられるのだろう。 (私女の子なのに…!) 本当になんなのだろう。 分からないことだらけで、何が分かっていないのかさえ分からない。 「……これって私の部屋だけのなかしら?」 「どうだろうなぁ」 「あんた…さりげに楽しんでない?」 「楽しんでないって」 密かに口元がゆるんでいるのはジャスティーンの気のせいなのだろうか? まあいい。コレに頼ったってろくな結果は出ないと日々学習してきたジャスティーンは一別を向け、 「ちょっとシャトーのところへ行ってくるから。あんたは部屋の掃除してて」 と部屋を出て行った。 「俺は何もしてねーだろ…?」 トンとタンスに触れた矢先、ガラッと崩れる。 自分は専門外だ そう言い聞かして、部屋から姿を消した。 ← → |