北八ツと山小屋 '96夏

 

 今回は関西の友人と二人での、まことにのんびりした山行でした。

1.麦草峠

 結局、今年もまた八ヶ岳に来てしまったのです。麦草峠は3度目。国道が通 るためにクルマで手軽に行けてしまいますが、諏訪と佐久を結ぶ重要な峠でも あります。なお、国道の最高地点(2120m)です。ここに建つのが「麦草ヒュッテ」。北八ツのど真ん中にある、れっきとした 山小屋です。国道が後からできて、クルマやバスで行けるようになってしまい まったのです。便利なんですが、山の雰囲気を大切にしたい人は遠ざかってし まったかもしれません。軟弱トレッカーの私としては、この便利さがちょっと気に入りました。今回 初めて宿泊してみたのですが、静かな良い山小屋でしたよ。星もたくさん見ら れました。ちなみに、私が泊まったのはH8年8月8日で「八ヶ岳の日」なの でした(もちろん知りませんでした)。おかげで、夕食に果実酒一杯サービス となり、「ナナカマド」を賞味したのであります(^^)

 クルマで行けるというのは批判もあるかも知れません。けれども、愛車に適 当な荷物を積んで、気楽に山の宿へ行けるというのは、私にはうれしいことで す。パソコンやギターだって持っていけますからね(^^; ここを拠点に、四季の北八ツを楽しむというのも、なかなか良いかもしれな いと思ってしまうのでした。

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 今回のコースを簡単にご紹介します。
 麦草峠→茶臼山→縞枯山→雨池峠→雨池山→三ツ岳→北横岳ヒュッテ  横岳→坪庭→雨池峠→雨池→麦草峠

2.茶臼山

 麦草峠から眺めると、お碗を伏せたような形の山。地図でルートを確認する と、ほとんど直登のようです。麦草峠から北側へ登山道を入ります。しばらく 行くと「大石峠」という分岐がありますが、構わず頂上を目指します。すぐに 「中小場」という小高いピークに到着。岩がごろごろした見晴らしの良い場所 です。正面に相変わらず茶臼山があります。

 いったんやや下った後、本格的な直登が始まります。とはいえ、足場の良い 背の低い木々に囲まれた道は快適でした。それほど労無く頂上に達しました。 ここは樹木に囲まれた無展望の場所。そこから「天望台」と言われる場所まで は1〜2分の距離です。この展望台は、山頂の西の縁にあたり、樹木が生えていないので視野は抜群 です。東側の展望はありませんが、蓼科から赤岳までの八ヶ岳の主要な峰が見 渡せます。あいにくこの日は視界が悪かったのですが、北アルプスや中央アル プスも見えるでしょう。南アルプス北部も有望です。 この展望台の素晴らしさは、足元に八ヶ岳の裾野が広がっていることです。 まるでその上を飛んでいるかのような、高度感抜群の眺望でした。

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3.縞枯山

 茶臼山から北側へいったん下って登り返すと、そこはもう縞枯山の長細い山 頂部の南端です。ここにも岩場の展望台があります。こちらは東から南に視野 が開けていますので、視界が良ければ浅間山や奥秩父の山が見えるでしょう。山頂部をつたう道を歩くと、2403mの頂上に到着。やはり樹木が繁って いて、景色は見られません。そこから雨池峠に下る道は、大変急な道でした。 下から登ってくる人たちが大変そうでした。しかも、ロープウェイで上がって 来たであろう、軽装のファミリーなどもいらっしゃって、少々気の毒なくらい でした。この道を下りきると、こじんまりとした草原となった「雨池峠」に到 着しました。

 縞枯山の名は、ご存知のとおり「縞枯模様」から来ています。しかし世界的 にもまれだというこの現象が、何故生ずるのか。いくつかの説があるものの、 解明はされていないようです。酸性雨説もありますが、ピラタスロープウェイ では否定しているようです。何年かに1度の大型台風が原因という説が有力ら しいのですが、何故この山域だけに生ずるのか。やはり謎ですね。

 

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 北八ツとは、八ヶ岳北部の山域の俗称ですが、具体的にどの範囲を指すので しょうか。一般的には夏沢峠以北、北横岳までと言われています。蓼科山をも 含める場合もあるようです。

4.三ツ岳

 雨池峠から少し西へ歩くと、すぐに縞枯山荘があります。我々はそこで場所 を借りて昼食をとり、再び雨池峠に戻って「雨池山」へ登りました。標高差は それほどありませんが、やはり直登でした。 ピークを越えるとまた下りになって、水の無い沢のような鞍部に至ります。 途中すれ違った年配の女性の話しでは、そこからの斜面が大変急だとのことで した。登りには絶対使いたくないとまで言われました。我々はそこを登ること になるのですが、「若いから大丈夫」と励まされました(^^;

 確かに、今回の山行中では最大の急登でした。ここまで、ずっとトレキング ポールを使用していましたが、さすがにしまいました。それでもようやく山頂 に到着。「三ツ岳」と呼ばれる3つ岩峰の最初「一の峰」です。ここからの眺めも素晴らしいです。歩いてきた峰々、これから行く峰々が一 望できます。また八ヶ岳南部の峰も雲の間に見え隠れしています。水をたたえ る「雨池」も間近に見えています。ここから大きな岩が折り重なる稜線を歩く ことになり、二の峰、三の峰を越えていくのです。 「坪庭」もよく見下ろせて、観光客の列ができているのがわかります。とき おりロープウェイの放送が聞こえています。もちろんこちらはすれ違う人の少 ない静かな場所。クサリ場などもクリアしながら、ようやく岩場を脱出しまし た。そこから稜線の道をたどると、北横岳ヒュッテに到着しました。

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5.北横岳(その1)

 北横岳ヒュッテは、こぎれいな山小屋です。入り口の戸を開けると、バイト の娘さんが出てきて、宿泊の手続きをしてくださいました。時間があるので、 すぐ近くの「七ツ池」を散策することにしました。ヒュッテから1〜2分。小さな池に到着しました。こんな稜線上に池がある のも妙ですが、確かに水をたたえています。道に沿って歩くと、いったん池か ら離れ、また別の池があらわれます。ロープが張られてむやみには歩けなくし てあるために、この2つの池しか見られませんが、7つあるというわけでもな さそうです。

 ヒュッテの夕食の時間となりました。このメニューを見て驚きです。なんと スキヤキではありませんか!!コンロとナベが用意してあって、牛肉と野菜が 脇に盛られているのですよ。おまけに1升ビン丸ごと、日本酒をふるまってく ださいました(^^; 山の上でこんなごちそうにありつけるなんて、感激!!  他の宿泊客の話しでは、おやじさんが40kgにもなる荷物を今日ボッカし てくださった成果なのだそうです。けちけちした量ではありませんよ。半分は 肉なんです。もうたらふく食べちゃいました。おまけにお酒で心地よくなって しまいまして、15人のお客さんはすっかり満足といった風でした。おもわず皆で話し込んでいると、おやじさんが真ん中に陣取って、いろんな 話しが飛び出しました。特に印象的だったのは、他の山小屋で不満だったこと を自分の小屋では改善してきたという話しです。食事の内容もしかりなのかも 知れませんね(^^) 結局、私と友人、そしてもう一人年配の男性の3人が、最後までおやじさん の話しに付き合いました(^^;

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6.北横岳(その2)

 「北横岳」の名は俗称で、本当は「横岳」なのです。同じ八ヶ岳で赤岳の北 側にも同名の山があるため、区別するために北八ツの横岳を北横岳と呼んでい ます。ヒュッテからこの山頂まで10分程度の登りです。

 私は翌朝4時半頃に起きました。そしてすぐに山頂を目指しました。そうで す御来光を見ようというわけです。しかしこの日はガスが出ていました。少し ずつ明るくなってはくるものの、東の空には太陽は現れません。日の出の時刻 をかなり過ぎて、やっと雲の切れ間にちらりと見えたものの、すぐに隠れてし まいます。結局、しっかりとその姿を見ることはできませんでした。山頂から見えたのは、八ヶ岳南部の峰々がガスに包まれた神秘的な景色と、 空にぽっかりと浮かぶ三日月と一つの星でした。それはそれで、面白いものを 見られたと思っています。

 ヒュッテには、北横岳山頂からのパノラマ写真が貼られています。これを見 た限りでは、相当展望の良い場所のようです。八ヶ岳南部はもちろん、南ア北 部の峰、中央アルプス、御嶽、乗鞍岳、北アルプス、妙高山など北信越の山、 霧ヶ峰や蓼科山、浅間山、奥秩父の山々、などです。富士山は見えないようで すね。写真に主な山名も記されていました。

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7.坪庭

 北横岳から「坪庭」への斜面は、坪庭を囲む壁のようになっており、さすが に道はジグザグに付いています。坪庭というのは、溶岩台地か何かだと思いま す。大きな岩の折り重なる小高い丘の上に背の低い樹木が生えている場所で、 庭園のように見えないでもありません。登山道を下って坪庭に入ると、一方通行の遊歩道に合流します。時計回りに 強制的に歩くことになります。まだロープウェイ運行前の時間であり、誰もい ません。朝のすがすがしい空気の中、悠々と散歩することができました。ロープウェイの駅にも行ってみましたが、レストランなどもあるようです。 トイレは、ロープウェイ利用者以外は有料だそうです(^^;

 坪庭から東へ、昨日通った縞枯山荘の前を通って雨池峠に戻ります。途中で ゴミを拾い集めているロープウェイの社員に出会いました。ロープウェイ自体 には批判の声も聞かれますが、この社員の努力には、素直に「ご苦労さま」と いう言葉が出ました。

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8.雨池

 雨池峠から「雨池」までは下りです。地図で見る限り、きつそうではありま せんでした。しかし、これがなかなかの難路。石がゴロゴロした狭い道で、土 も湿っていて歩きにくいのです。すれ違う人もありませんでした。やがて林道に合流します。XCスキーのコース標識がたっています。しばら く林道を歩くと、雨池に降りる道が現れます。うっそうとした樹林の中を降り ていくと、いきなり広い池のほとりに出ます。

 この池は水の出入り口が無く、日照りが続くと枯れることもあるそうです。 今回は満々と水をたたえ、10m幅くらいの広い湖岸が続いていました。そこ でコーヒーをわかして休憩。ちょうど対岸には、にぎやかな数人のパーティー がいました。水はちょっと飲用できそうにありません(^^; 湖岸を時計と反対回りに歩いていくと、獣の足跡がたさん付いていました。 池を離れる分岐点から、縞枯山と茶臼山の連なりが見えます。そこからは足場 のぬかるんだ道を進み、再び林道に合流。そしてまた林道を外れ、樹林の中の まったく北八ツらしい道を進んでいきます。すれ違う人が現れ始めると、麦草峠はもう目前でした。クルマの音が騒々し いなあと思っていたら、麦草峠周辺は結構な人出でした。そういえば土曜日。 お盆ウィーク突入ともあってか、麦草ヒュッテも大変賑わっていました。

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9.北八ツ雑感

 「森と湖」の山域と言われる北八ツ。八ヶ岳連峰の北部山域は、南部山域と 同じ峰続きの火山でありながら、その様相は随分違います。いわゆるアルペン 気分を味わうのなら南部山域なのですが、北八ツ独特の静かで落ちついた雰囲 気には、捨てがたい魅力がありますね。今回、麦草ヒュッテに到着したときに「白駒池」を散策しています。そして 「七ツ池」と「雨池」を翌日、翌々日に巡ることとなりました。それ以外にも 「亀甲池」や「双子池」といった池が点在し、湿原も存在します。森といっても、苔むしたうっそうとした場所もあれば、背の低い樹木からな る明るい場所もあります。各ピーク付近には、申し合わせたように岩の折り重 なる展望台があったりして、そこからの展望は優れているでしょう(私は視界 の良好だったことが無いので)。

 随所に山小屋があって、それぞれ個性的で特色があります。それらを利用し てみること自体が魅力のひとつだったりします。経営面では心配ではあります が、あまり混雑とは縁が無いようですね(^^; アプローチが特に長い山や山小屋もありません。国道が通っていたり、ロー プウェイがあったりして、方法によっては実に手軽に行けてしまいます。それ を邪道とするか、身近と考えるかは、個人の自由判断でしょう。利便の良い場所であれ、30分も歩けば本当に静寂の中に身を置くことがで きます。2000mを越える山域ですから、植生も気候も高山のもの。下界と は違った空間です。

 日常を離れ、山の世界にひたりたくなったら、北八ツを訪れてみるのも良い かなと思うのでした(^^)

 おしまい。

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