鷲ヶ峰(雨の霧ヶ峰) ’93夏

 

 霧ヶ峰へは、子供の頃に訪れた記憶はあるが、大人になってからは1992年の夏に行ったのが初めてでした。そのときにニッコウキスゲをはじめとする様々な花の咲き乱れるこの高原に、この世の楽園を見た思いがしました。そして翌年の1993年夏、再訪を考えたのは自然な気持ちといえましょう。1992年には強清水〜車山を歩いていたので、今度は八島湿原〜鷲ヶ峰を歩いてみることにしました。その様子を思い起こしてみます。(2000年4月21日記述)

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 「霧ヶ峰を訪れたら八島へ行け」。前年に車山方面へ行ったときに聞いた話しです。八島とは霧ヶ峰最大の高層湿原である「八島湿原」のことですが、ここが大変素晴らしい場所だということです。そこでこんどはその八島湿原を含め、霧ヶ峰高原の北部に位置する鷲ヶ峰へ行ってみることにしました。同行者は山師匠です。

 鷲ヶ峰方面へは、いわゆるビーナスラインという道路を強清水から北進します。しばらく行くと駐車場にクルマや人がにぎやかな場所があります。そこが八島湿原の入口です。この日はあいにくの曇り空で、今にも雨が落ちてきそうな空でした。しかも霧ヶ峰はその名の示すとおり霧の多く出ることでも有名で、天候はいま一つのようでした。それでも我々は、とりあえず鷲ヶ峰への登りにかかりました。


左:鷲ヶ峰方面への登山道、右:登山道から見た八島湿原

 小高い場所まで上がると、すぐに八島湿原が見渡せました。こうした高層湿原と呼ばれるものは、日本では尾瀬沼が有名ですが、この八島湿原もなかなか大きなものです。その大きさは後に実感することになりますが・・・。さて最初に見えるピークは鷲ヶ峰ではなくて、尾根伝いにいくつかのピークを踏まねばたどり着けません。湿原方面のにぎわいとは離れ、こちらは人のほとんどいない静かな場所。ニッコウキスゲなどが咲く道をたどっていると、シトシトと雨が降り始めました。雨合羽を着用しての山行となりました。


左:ニッコウキスゲの咲く道、右:雨の中で尾根道を行く

 標高も上がって、いよいよ鷲ヶ峰に到着のようです。ガスがわいて展望は利きませんが、切れ間に諏訪湖が見え隠れします。視界さえあれば、素晴らしいパノラマが広がるように思いました。体が冷えるため、早々に山頂を後にして下山しました。


左:諏訪湖方面が見える、右:八島湿原方面にわきあがるガス

 八島湿原の入口まで戻った我々は、ガスで視界の利かない中、湿原の周遊路を左まわりに歩いてみることにしました。木道が整備されており、水たまりを踏むということはありませんが、多くの人が歩いているためすれ違いに気をつかうこともありました。ときおりガスの中にニッコウキスゲの群生が現れたりして、何か神秘的な世界に迷い込んだような気分でした。やがてキャンプ場のある場所を過ぎ、さらに進みます。しかし、数10m程しか先の見えない中で未知のルートを行くというのは、感覚を狂わせるのもあると思います。いけどもいけども戻り道への分岐が現れません。周遊路ですから、分岐を右に行けばもとに戻れるのです。分岐を見落としたのかもしれない、いやでも湿原はまだ横に見えているから正しいはずだ、頭の中で葛藤が起きます。どれだけ歩いたのか、今どの辺りにいるのかわからないまま、ついに、来た道を引き返す決断をしました。何か重い足取りで釈然としないまま、無事にもとの場所まで戻ることはできました。こうして、なんだか別世界を旅したような霧ヶ峰二度目の山行を終えました。

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 その後1996年の夏に、晴れ渡った夏空の下で八島湿原を再訪し歩くことができました。ただ、1993年のあの神秘的な雰囲気も、今となっては懐かしい気がして、そんな山行もちょっとしてみたいなと思うのです。晴れた山はもちろんいいけれど、雨の山にもまた趣がある。そう思える山行だったかもしれません。

(終わり)

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