05:雨
頬に冷たい、何かが当たった。
ポツン。
それが雨だと気が付くまで3秒。
そういや空が曇っていたっけ、と考えるのが5秒。
傘、学校に置き忘れて来ちゃった、と考えるのが10秒。
18秒たって、ようやく服が濡れていることに気づいて。
ポツン。
見上げていた顔も濡れていることに気づいた。
冬の雨はとても冷たい。
雪に変わる前の雫は、肌の上を滑って温度を奪っていく。
雪のように優しくない、弾くように、時には、突き抜けるように降り注ぐ、雨。
風も加わって、手先がジンジン痺れている。
膝は赤く、足は震え、吐く息は白い。
けれど。
目元は熱くて、視界は霞む。
雨と一緒に流れる雫は、雨と似ていて、でも、違って。
なのに。
頬を伝いはじめれば、風に熱さを奪われて。
雨に混じって、消えてしまう。
ただ、少し。
口元に広がる、しょっぱい味を残すだけ。
ぽた。ぽた。
頭から、つま先へと。
ぽた。ぽた。
伝わり、流れる。
「おねえちゃん、どうしたの?」
ふと、視線を下ろすと、黄色い傘をさした女の子がいた。
赤いランドセルをしょって、長靴をはいた女の子。
「風邪、ひいちゃうよ?」
そう言って差し出された、小さな傘。
「あげる」
にっこりと、笑顔を浮かべて言う。
それを、そっと受け取って。
「いいの?」
「レインコート、あるの」
鞄からひっぱりだされた小さなビニールのコート。
うれしそうに着る少女は、とても無邪気だ。
「…いいの?」
もう一度たずねる。
「うん。あたし、傘よりレインコートの方が好きだから」
「どうして?」
「だって、雨が近くに感じられるんだもん」
パシャ、と水たまりを踏んで笑った。
「じゃあね」
少女は去り、残されたのは小さな傘。
頭が入るだけで、あとはずぶ濡れ。
「…バイバイ」
ぐっと顔をぬぐって、私は傘をさしながら家に帰った。
rain - - 雨
冷たくて、でもあたたかい、雨。